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WiMAX陣営を取り込み、世界に飛び火する中国勢のTD-LTE戦略(2010/07/13)
次世代のモバイルネットワーク方式を巡り、これまでWiMAXとLTEの間で続いてきた主導権争いは、現在LTE優勢との見方が大半を占めている。そんななか、中国の推進する"TD-LTE"が、ここにきて頭角を現し始めてきた。それまで欧州勢が推していた"LTE-FDD"と、同じLTE標準規格という枠組みのなかで、従来とは形の異なる国際主導権争いが始まるだろう。
スマートフォン/パッド型端末の急増と3.9Gの構築 ドコモやベライゾンなど、世界のLTE先頭グループがいよいよ商用化に踏み切る。iPhoneやAndroidOSスマートフォン、そしてパッド型端末に注目が集まるなか、モバイルブロードバンド網構築ニーズが急速に高まっている。指数関数的に増加するデータトラヒックに対処するため、各国の携帯電話オペレータは3Gのアップグレードや、LTE/モバイルWiMAXといった3.9G網の早期構築に迫られてきた。これは喫緊の問題である。 もう1点忘れてならないのが、急増するデータトラヒックの割りに、事業者の収益が連動しなくなってきていることだ。むしろ年を追うごとに、両者間の乖離が目立つ傾向にある。すなわち事業者にとっては、ネットワーク全体を流れるビットのコストを可能な限り抑制させなければならない。そのためには基地局から先のバックホール回線の容量を太くし、さらにはすべてのトラヒックをIP化して効率的に処理していく必要がある。 図1 データトラヒックの爆発的急増とオペレータ収益の乖離 出所:各種資料をもとに情報流通ビジネス研究所作成 そうしたコンセプトで登場してきたのが、モバイルWiMAXとLTEというわけだ。とりわけLTEは、データ通信の高速性に加え、遅延の少ない通信を実現できることから、クラウド・コンピューティングにも適した環境を実現する、次世代ネットワークの大本命と目されるようになってきた。3.9G/4Gにおける本命の座を巡って激しく争われ、「LTE vs.モバイルWiMAX」と喧伝されてきた構図からすると、標準化の進展とともに、最近では「LTE優勢」という向きが大半を占めるようになっている。 LTE標準のなかの2つの通信モード LTEは、標準化機関3GPPにおいて、Release8として2009年に仕様が固まり(LTE-Rel.8)、現在その4G仕様である「LTE- Advanced」(LTE-A)の策定作業が進められている。LTEには上り下りの通信形態によって、上りと下りの通信に別々周波数を使う FDD(Frequency Division Duplex)と、時分割によって単一周波数での同時送受信を行うTDD(Time Division Duplex)の2通りの複信モードがある。 これらは、いずれも同じLTE標準として扱われており、実際のところ周波数の使い方以外は基本的に同一規格で、仕様も大半が共通化されているため、両モードに対応したチップの開発・製造も容易とされる。 つまり、両方に対応するLTE端末やLTE基地局は、比較的容易に作ることが可能ということだ。 今までモバイルWiMAXと比較されてきたのは、LTEのFDDモード(LTE-FDD)で、主に欧州ベンダーや日欧米のキャリアが支持してきた。 ところが最近では、中国勢が推進するLTEのTDDモードである「TD-LTE」が急速にクローズアップされてきている。同じ標準規格のため、互換性を持った端末や基地局により、相互乗り入れも可能といわれているが、現実には周波数の割り当て方の違いから、対象地域やエリア、ビジネスモデルが大きく異なるものと考えられる。 中国・インドへの導入とWiMAX事業者の合流 複信モードという点に着目すると、モバイルWiMAXはTDDモードを用いている(仕様上はFDDモードあり)。つまり、周波数の割り当て方や使い方、技術的特徴といった点も、TD-LTEと同じか似ている部分が多い。 そうしたことから最近では、先行きの不透明なモバイルWiMAXに対し、今後はTD- LTEへの切り替えや併存といったことを、各国のモバイルWiMAXキャリアが検討するようになっている。 欧州勢が推していたLTE-FDD採用を表明する携帯電話キャリアは各国に多く存在し、それぞれのスケジュールにもとづき、これから本格的な商用化に向かうことになっている。 ただ、LTEに比べてコスト的に有利な、HSPA+といった3G網のアップグレードを一通り行ってから――というオペレータも少なくない。2010~2011年という期間内でみれば、本格的な商用LTEサービスと呼べるものは、先述のドコモやベライゾンといったところに限定されるだろう。2012年からはKDDIなどがサービスを開始し、それと前後して商用化が始まるという具合である。 これに対し中国のTD-LTEは、例えばキャリア1社で5億を超えるチャイナ・モバイルが商用に向けて動くなど、圧倒的なインフラ設備や端末の調達規模が見込まれる。TD-SCDMAで世界に周回遅れ以上の差をつけられた中国勢は、TD-LTEで3.9G/4G時代の覇権を取りにいっている。 中国関係者は、現在のTD-SCDMAをなんとかしたいと筆者にこぼしたことがある。これは、早くTD-LTEを推進させたいという中国勢の本音なのだ。TD-SCDMAの遅れの要因には、技術面などいくつか挙げられるが、自国だけで巨大な市場を有していることを背景にした、自国内に閉じたエコシステムでこのサービスを開始させようという、事業コンセプトが根本にあると筆者はみている。 そのためTD-LTEでは、TD-SCDMAの教訓がそこかしこに生かされている。まず第一にTD-LTEを中国だけでなく、世界各国に広げようということ、そしてインフラ設備や端末、チップといった部分にも世界各国のプレーヤーにそれぞれ参画させようということ――などが、それである。そしてそれらは着実に進んできていると言っていいだろう。 例えば中国に並ぶ巨大市場、インドにおいて行われた周波数オークションで、クアルコムが主要都市エリアで落札した。採用するシステムはTD-LTEである。商用化の開始時期からすれば、総本山の中国を差し置いて、インドの方が先行する可能性を指摘する向きもある。中国にとって、これがTD-SCDMAならあり得ないことかもしれないが、TD-LTEはおそらくそのようには考えていないだろう。世界的な市場スケールの巨大さに拍車をかける重要性を認識しているためである。 これに加えて、各国のモバイルWiMAX事業者が今後、TD-LTEを採用する可能性が高まるとなれば、世界における3.9G/4Gのイニシアチブを TD-LTEが獲得する可能性も低くない。GSMの成功以来、世界の携帯電話市場において主導権を決して手放すことのなかった欧州勢に、割って入ることができるチャンスが生まれたのである。 図2 3.9G/4Gを巡る予想展開マップ 出所:情報流通ビジネス研究所 FDD陣営とTDD陣営の主導権競争構図 このように、次世代のモバイルネットワークを巡る、これまでの"LTE(LTE-FDD)vs.モバイルWiMAX"という構図は、"FDD vs.TDD"という枠組みへと変容し、これから欧州~中国、そして米国も絡んだ主導権争いが激しくなっていきそうな気配だ。現在、中国の上海万博会場でさまざまなTD-LTEのフィールド・トライアルやデモが行われている。そこでは世界の有力インフラベンダーが、こぞってTD-LTE事業への対応強化をアピールしているが、そのことを何よりも物語っているといえよう。 →詳細は最新レポート「モバイルインターネット要覧2011」へ (文/情報流通ビジネス研究所 所長 飯塚周一)
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