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米国市場にみるモバイル事業の環境変化(2010/10/22)
1983年の本格的商用サービス開始以来、25年以上過ぎた米国携帯電話市場は、2009年の普及率が95%に肉薄し、成熟期を迎えている。AT&Tモビリティ、ベライゾン・ワイヤレス、スプリント・ネクステル、T-モバイルUSA――の4大メジャー携帯事業者が市場をリードし、3Gネットワークの広がりに加え、モバイルデータサービスが本格化することで、携帯電話事業者間の競争も激しさを増している。
M&Aを通じた携帯事業者間の合従連衡 米国の移動通信市場では、M&Aを通じた携帯事業者間の合従連衡が活発に進んだ。これには米国市場固有の特性や、事業環境の変化による複数の要因が挙げられる。 まず挙げられるのは、携帯事業者が膨大な面積をサービスカバレッジとして確保しなければならない状況の中で、ローミングサービスの重要性が増していることである。全国単一網の携帯事業者として成長し、競争するためには、脆弱なカバレッジを補い、マーケティング力を向上させなければならない。その最も現実的かつ有効な方法が、M&Aというわけである。 第二に「規模の経済」効果を通じて、ネットワーク設備はもとより、端末やソリューションおよびサービスコンテンツを低価格かつ容易に調達するための戦略が挙げられる。サービスという商品の生産や、供給のための材料といえるこれらの要素に対する調達能力の差別化こそ、熾烈な競争を生き残る重要な目安となる。 第三に挙げられるのは、ケーブル事業者との競争である。多くのケーブル事業者が規模を拡大し、VoIPサービスのラインナップまで備えて通信市場に参入しているなか、携帯電話事業者とケーブル事業者という異種事業者間の競争が重要な変数となった。携帯電話業界で起こったM&Aブームは、携帯オペレータに共通する危機感によるものともいえる。 最後に、資本市場が成熟し、企業間の買収合併に向けた法的・制度的環境が整備されたことも見逃せない。どの国であれ、通信産業を完全に規制外に置くことはできない。しかし、米国ほど市場の自律機能に委ね、最小限の規制を行っている国は稀であろう。図表に、固定・無線通信市場における米国事業者間競争構図の変遷過程を示した。 M&Aを通して、規模の経済の確保に成功した米国の携帯電話メジャーは、次のフェーズとして2005年頃からインフラの高速化に向けた動きを活発化させている。GSM/UMTS勢のAT&TモビリティはHSDPAネットワークを構築しており、一方のT-モバイルUSAはGSMからUMTSへの転換を急いだ。CDMA勢のベライゾン・ワイヤレスは、CDMA2000 1X EV-DO Rev.Aの全国網を構築したが、その次の段階としてGSM/UMTS勢の推すLTEの採用を表明し、当時の業界を驚かせた。 もうひとつのCDMAオペレータであるスプリント・ネクステルは、CDMA2000 1XRTTをCDMA2000 1X EV-DO Rev.Aにグレードアップする一方、クリアワイヤのモバイルWiMAXを次世代インフラとして位置付けた戦略を展開している。ただ一方では、モバイルWiMAXの旗色が世界的に芳しくなくなってきた現在、スプリント・ネクステルはLTEの採用も検討し始めた。 図 米国通信市場における競争構図の変遷過程 出所:情報流通ビジネス研究所 スマートフォン・ブームの意味するところ 携帯電話オペレータにとって、次世代インフラ戦略が今後の中核サービスのベースとして、極めて重要な意味をもつことはいうまでもない。先に述べたように米国では、iPhoneやAndroid端末で火がついたスマートフォン・ブームが、単なるブームを超えて携帯電話市場の大きなトレンドを形成するようになった。 スマートフォン需要の拡大と並行して、アマゾンのKindleのような電子ブックリーダーやAppleのiPadといった、非音声系サービスに特化する各種のモバイル端末が大きな注目を集め始めている。 これらのデバイスはいずれも、携帯電話オペレータの提供するネットワーク仕様に規定されることのない、Webベースのサービスやコンテンツ、アプリケーションという、上位レイヤにおける魅力的な各種サービスの利用を起点として、それぞれ開発された端末である。極論すれば、インフラ側の制御や意思とは関係のない挙動をみせる端末とみなすことができよう。 従来、オペレータ各社が施してきたインフラの高速化・高度化は、あくまでオペレータの想定するアプリケーションやコンテンツ流通がスムーズになることを前提に進められてきた。しかし今や、ネットワーク高速化・高度化を加速させている原動力は、やや極論すればオペレータの意思とは関係のないところにある。 すなわち、端末側が求めるデータ通信環境を満たす、高速・大容量インフラ構築に対する要求の高まりが、インフラとは異なったレイヤから沸き起こってきたのである。 端末がインフラの在り方を規定する時代に 例えばAT&Tは、2007年7月よりAppleのiPhoneを期限付きで独占的に販売し、新規加入者数を伸ばしている。AT&Tで販売したiPhoneのうち、アクティベートしてモバイル網へ接続された台数は、2009年6月末現在で、累積1040万に上っている。 反面、ネットワークと頻繁にやりとりする制御データや、一般の携帯電話とは比較にならない大容量パケット伝送のため、都市部などではトラヒックの輻輳やつながりにくさ、通信速度の低下といった事態を招いた。無線を使用しているとはいえ、通信のQoS を本来堅持すべきオペレータたる、AT&Tのネットワークに対する評判や信頼性が低下した。 AT&Tモビリティといえば、それまで組織形態が変わって現在の姿に収まったとはいえ、旧国営電話会社の末裔である。米国内におけるブランドは未だ強い。2008年末にベライゾンがオールテル買収を行い、加入者数を上乗せするまでは米国市場においてシェア首位の座に立ち続けていた。 ネットワークの品質に関しては、ベライゾンの方がもともと高いとの評判があるにせよ、iPhoneは米国市場において堅固な位置を保つAT&Tへの評価をも揺るがしかねない存在にまでなったのである。要するに、AT&TにとってiPhoneは、両刃の剣ということになる。 魅力的な端末の独占的販売によって、自社ネットワークへの顧客囲い込みを狙い、そしてそれは成功したものの、従来以上にネットワークの品質が厳格に問われるようになり、むしろオペレータとしてのブランドや信頼が棄損された可能性は否定できない。 こうした点は定量化できないが、同社が抱える加入者全体に及ぼす影響は、決して少なくないものと思われる 。ベライゾンのCDMAネットワークに対応するiPhoneの発売が巷間いわれており、一説にはAT&TのiPhoneユーザーの半数が、ベライゾンに移行するだろうとの観測もある。 現在、同社は既存UMTSのアップグレードによって、HSPA/HSPA+へとネットワークの高速化を行い、スマートフォン等の普及によるインフラ容量の逼迫に応えようとしている。しかし、今後ますますスマートフォンや他のモバイル端末が増加することによって、同社はさらに高速のLTEを導入する必要に迫られている。 いわば、これまでオペレータ主導でインフラの更改を計画的に進め、それに見合った端末が出されるという関係が、主従逆転の時代に入りつつあるといえよう。とりわけ米国では、欧州のようにテレコム業界がモバイル分野において主導していくビジネスモデルは薄れつつある。 むしろ、AppleやGoogle、Amazonといった上位のネット系大手プレーヤーが覇を競い、モバイル市場へと次々なだれ込む格好である。スマートフォンやパッド型端末、電子書籍リーダーなどは、その小道具に過ぎない。極論すれば、インフラもビットパイプの口径の大きさと、エリアカバレッジだけが問われる存在になろうとしている。 上位レイヤから盛り返す米国モバイル業界 CDMAまでの2~3G市場で、米国携帯電話産業界は標準化段階から欧州GSM勢の向こうを張ったものの、現在ではすっかりその面影がなくなった。米IEEE発のモバイルWiMAXにしても、そのエコシステムに亀裂が入っていることは紛れもない事実であろう。今後TDDバンドにおいては、中国勢の推すTD-LTEの台頭が予想される。このように米国では、インフラや端末のハード市場でも、欧州系あるいは中国系ベンダーの跋扈を許しているような状態である。 脈々と続いてきたテレコムビジネスにおいて、米国は存在感を急速に失ってきている。しかし上記に記した通り、ネット系という上位層での自由闊達なビジネスの展開と、プレーヤーの激しい新陳代謝という一種の強みを発揮しながら、米国勢は従来のテレコム業界と異なる事業パラメータを編み出し、次世代モバイルビジネスに向けて反転攻勢に出てきたといえる。 端末OSおよびその上で流通するアプリケーション、異業種参入など、エンドユーザーとの間においてダイレクトに接点を持つ部分こそ、これからのインフラや端末の在り方を規定・支配していくという大きな渦を作り出し、米国は再びモバイル業界におけるグローバルな主導権の奪回に出てきたのである。米国内市場におけるオペレータ間競争は、その最前線とみることも可能であろう。 (文/株式会社 情報流通ビジネス研究所・所長 飯塚周一)
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