情報流通ビジネス研究所
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03/16

【予告】「モバイルインターネット要覧2016」発行へ
モバイル市場の国内外動向と方向性を徹底分析した調査レポートの決定版が5年ぶりに登場へ。市場環境の激変とプレーヤーの事業モデルを展望する業界関係企業必携の報告書
2016年夏頃発行(予定)/全約400ページ/予価92,500円(税別)











 



 


MVNOの動向(2015/02/01)

「格安スマホ」「格安SIM」をうたうサービスが次々と登場し、社会的にも大きな反響を呼んでいる。この格安サービスを繰り出しているのが「MVNO」(Mobile Virtual Network Operator、仮想移動通信事業者)である。MVNOは携帯電話キャリア、すなわち移動通信事業者(MNO:Mobile Network Operator)のネットワーク設備を借り、各種の移動通信サービスをエンドユーザーに提供している。

■MVNOの参入ラッシュに沸いた2014年

MVNOという存在自体、国内では2000年代前半から登場していた。しかし、一部のM2M用途にとどまり、長らくマイナーな存在でしかなかった。MVNOに対するネットワーク供与をMNOが事実上拒んでいたことに加え、MNOが主導する端末製造・調達やコンテンツ流通の仕組みなど、MNOによる強固な垂直統合構造が敷かれていた、というのがその大きな理由である。

MNOが国内携帯電話ビジネスのすべてを仕切る。そんな市場環境の下、MVNOの本格的な参入を促すために政策当局が打ち出したのが「改正MVNO事業化ガイドライン」(2007年2月)であった。そこではMNO-MVNO間の「接続」の適用が明記され、第二種指定事業者(一定以上のシェアを持つ通信事業者)はMVNOからの接続要求に対して応諾の義務があるとされた。

加えて、ガイドラインではMNO-MVNO間をレイヤー3だけでなく、レイヤー2で結ぶことも認めている。さらには、端末のSIMフリー化やHLR(Home Location Register)/HSS(HomeSubscriber Server)といった、MNOの網機能開放の必要性も説いた。
端末のSIMフリー化については、その後に打ち出された「SIMロック解除に関するガイドライン」(2010年6月)が2014年12月に改正され、事実上義務化されることとなった。これにより、2015年7月以降に発売される携帯端末の新製品は、原則SIMフリー機となる。これは、MVNOにとって大きな追い風になるだろう(図1)。

HLR/HSSの網機能開放に関しては、国内MVNO/MVNE(Mobile Virtual NetworkEnabler)の先駆的存在である日本通信が2014年2月、NTTドコモに対してHLR/HSSの接続を申し入れている。現在、両社で接続条件などについて協議しているが、これが実現すればMVNOが提供するサービスの多様化や高度化がさらに進んでいくと思われる。

2007年の改正ガイドライン以降、MVNOを巡る事業環境が本格的に整備される一方、携帯電話市場では「iPhone」の発売をきっかけに、スマートフォンが大きな市場の伸びを見せた。このとき、MNOが提供するデータ通信料金は月間7Gバイトの通信容量を前提にした高い水準にとどまり、各社横並びの状態が続いていた。

しかし現実には、高速で大容量のデータをやりとりする人もいれば、そうでない人もいる。MNOの料金はユーザーの利用実態に応じたきめ細かなプランが設定されておらず、硬直的であった。ここに、MVNOが参入する大きな隙ができたのである。

こうして2014年、通信速度や月間の総通信容量を抑えることで、格安にスマートフォンを使えるサービスを提供するMVNOが続々と登場した。IIJやBIGLOBE、So-netなどをはじめとするインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)系のMVNOはもとより、イオンや楽天などの流通/ネット系MVNO、あるいはパナソニックといったメーカー系MVNOという具合に、各社が次々と名乗りを上げていくこととなる。

現在では単に「格安」をうたうだけではなく、通信速度の増速や月間容量の増量、あるいは高度な制御による体感通信の向上などと、MVNOが提供するサービスも多様化してきた。

MVNO事業を推進する上で課題の一つとされてきた、端末調達の問題も改善されつつある。MVNOは当初、格安なSIMだけを販売するという販売形態にとどまっていたが、最近ではスマートフォンとセットで売るケースも増えつつある。

図1 MVNOの参入と事業環境の変化

出典:情報流通ビジネス研究所(http://www.isbi.co.jp/)

■MVNOビジネスは波に乗り切れたのか

社会的認知度が高まり、MVNOの提供する通信サービスは大きなトレンドに乗った感がある。ただ、ビジネスとしての側面から今の状況を眺めると、波に乗り切れているとは必ずしも言えない。

2014年度第2四半期(2014年9月末)における国内移動通信サービス(携帯電話/PHS/BWA)の契約数は、1億6335万である。そのうちMVNO契約数は、前期比で18.4%増、前年度同期比で57.9%増の1986万となった。これで見ると、MVNOのシェアは約12%に上る。もっともこれは、MNOが自社向けにMVNOのスキームを使ってサービスしている数も含まれている。それを除くと、純粋なMVNOサービスとしての加入シェアは約4%とみられる。

これに対し、MVNOの先進国ともいえる欧米各国のMVNOシェアは15~20%といわれている。つまるところ、国内のMVNOは認知度こそ高くなってきたものの、今はまだ限られたユーザーにしか行き渡っていないサービスなのだ。

限定的な加入者数にとどまっている点に加え、事業採算性の懸念もある。とりわけ、これは格安なサービスを売り物にするMVNOに言えることだ。国内では「格安」をキーワードに事業参入するMVNOが圧倒的に多い。その意味では、MVNO間において過当競争が既に始まっている、とみることもできる。

MNOからネットワークの一部を大口で仕入れ、それを細かくユーザーに切り売りして利ざやを稼ぐ以上、格安MVNOのできることには限界があるのも事実だ。

■格安MVNOの現状と課題

多く使っても少なく使っても月間7Gバイトの容量を前提とする硬直的な料金プランしか用意しなかったMNO各社は、その後、プランの多段化を図った。しかし、データ通信料金の水準そのものを劇的に下げたわけではない。

MVNOの多くは、MNOのように全国津々浦々にまで店舗を展開することはない。大半はインターネット上でSIMを販売し、料金メニューの設定やオンラインチャージを行う。端末についてはユーザーがどこかでSIMフリーモデルを調達し、自分でSIMをセットしてアクティベーションやAPN設定をする。このように、開通作業やメンテナンスなどはユーザーに委ねている部分が多い。

地元の店舗に駆け込んで相談やメンテナンスをしてもらうような機会を省く、ある意味ドライな運営をすることによってMVNOはサービスのコストを抑えている。現在のMVNO加入者は、この仕組みについていける限られた一部のユーザーなのだ。

MVNOが加入者をさらに増加させるためには、より一般的なユーザー層にターゲットを広げる必要がある。それには、リアルな店舗が不可欠だ。しかし、そうすると事業運営コストがかさみ、格安を打ち出しにくくなる。別の見方をすると、リアルな販路を充実させることは、MNOが行っていることと変わりがない。

また、MVNOはMNOから回線の一部を借りるため、MNOの提供する回線速度や品質を上回ることはない。端的に言えば、MVNOのうたう安さとは、いわば「見せ方」の問題である。

■MNOのダブルブランド戦略とMVNO

格安MVNOは、MNO間の競争における「代理戦争の担い手」とも見て取れる。

MNOは競合事業者の顧客をいかに自社に引き込み、逆に自社顧客が流出しないよう囲い込むかという点に主眼を置いている。MNOが月間のMNP(Mobile Number Portability)数を昨今重要視するのは、そのためである。

MNPを巡る競争において、もともとシェアの大きいキャリアは他社に顧客が流出する傾向が強い。当然、いったん他社に流出した顧客を自社で取り戻すのが正攻法ではあるが、それが難しいのであれば次善の策として、格安なMVNOを使い、間接的に顧客を奪取するという考え方も出てくる。

たとえば、NTTドコモの料金が高いとの理由からユーザーが格安MVNOを選んだとしても、結果的にドコモのネットワークにとどまっているケースも多い。ドコモは、サービスベースでの競争でシェアを落とすものの、ネットワークベースではしっかり顧客を囲い込んでいることになる。

従来MNOは、MVNOの存在自体に拒否反応を示してきた。たとえばMVNOとの接続はレイヤー3で十分であり、レイヤー2での接続などとんでもないという姿勢であった。レイヤー2で接続するのは、ある意味、自分の懐に手を入れられるようなことであり、拒絶したいと考えるのも一理ある。しかし、それができなくなった以上、今では、MVNOとの良好な関係をいかに構築すべきかという考え方に傾きつつあるのだ。

MNOがMVNOと接続する場合のコスト部分は、自社販売チャネルに対する手数料のようなものだという考え方もできる。今まで携帯ショップに支払ってきた販売インセンティブが、形を変えただけかもしれない。結局のところ、従来のキャリア間競争が変形し、MVNOがMNOの代理競争をしている――そうした捉え方をすることもできる。

そのような視点に立ち、MNOが自社サービスにおけるダブルブランド戦略の一環として格安MVNOを位置付けようとする考え方も出てきている。MNO自らは本来の料金水準をそのまま走らせつつ、ローコスト志向のユーザー向けブランドとして格安MVNOを利用する。MNOがMVNOをのみ込むという図式の先行事例は、既にある。

たとえば欧州では、後発でシェアの低いMNOがMVNOのSIMを自社の店舗で取り扱うという戦略を採った。そして、数多くのMVNOのSIMを取りそろえる中で、筋のいいブランドを持つMVNOや、加入数の多いMVNOを次々と買収していったのである。

MVNOの成功例として名をはせたVirginMobileも、英国ではケーブルテレビ業者に買収された。米国でもSprintがVirgin Mobile USAを買収し、プリペイドサービスのブランドとして活用している。日本でも、今後は似たような展開になっていくかもしれない。

■MVNOの新たな事業モデル

改正MVNOガイドラインが検討されていたころから料金面を訴求するMVNOの登場は想定されていたが、それは多様なMVNOのワン・オブ・ゼムという位置付けである(図2)。

MNOとは独立した存在としてMVNOが足場を固め、持続可能なビジネスモデルを構築するために大切な要素とは、何だろうか。
まずは、MNOと同じスタンスを絶対取らないこと。同じ土俵に上がらないことが重要だ。MVNOは文字通り通信事業者であるが、ある意味では通信の殻を脱ぎ捨てる必要があると思われる。

端末をゼロ円で配るのはもはやMNOの常套手段になっているが、たとえば端末もゼロ円・通信料金もゼロ円ならどうか。通信サービス単独で収益化を目指すのではなく、あくまで本業のビジネスモデルとひも付けた利益を確保する。通信という土俵の外で勝負する格好だ。

逆に、端末代や通信料金がMNOに比べて極端に高いという形もあり得る。ユーザーは高い料金を払わなくてはならないが、その代わりとしてMVNOのサービスに加入すれば何らかの特典が受けられる。 徹底的にMNOの領域外を攻めていく――こうした事業コンセプトが今後の主流になっていくだろう。

図2 MVNOを取り巻く環境と期待感(2005年当時)

出典:情報流通ビジネス研究所(http://www.isbi.co.jp/)

■流通大手とモバイルの親和性

MVNOの現状として、リアルな店舗を大々的に展開できないジレンマがあることを先に挙げた。現在は、大手の家電量販店が格安SIMを扱うようになってはいるが、アフターケアも含めたユーザーサポートという点では、ドライな顧客対応しかできないのが実情だ。MNOが築き上げた全国店舗網は、やはり相応の理由があって長い年月と莫大な投資をかけた結果なのである。

一方、MNOに迫る販売網を持つMVNOとして、全国規模のスーパーやモールを運営する流通系が有力視されている。海外で有名なケースとしては、英国の流通大手Tescoが古くからMVNOに参入しており、現在でもその事業が続いている。

スーパーやショッピングモールは日常的に消費者が訪れる場所であり、ユーザーとの接触率が非常に高い。相談事やアフターメンテナンスにいつでも対応できるという意味では、携帯ショップに匹敵する可能性を持っている。

流通大手企業は店舗にMVNOのビジネスモデルを組み込むことで、収益性の高い新たなテナントモデルを構築できるようになる。 また、本業における顧客データをMVNO事業で精緻化することも可能になる。流通大手にとって、MVNOビジネスはこれからのビッグデータ時代を本格的に見据えた動きなのである。

■「格安スマホ」の代名詞を脱ぎ捨てる日

図3に、MVNO参入前と参入後の携帯電話サービスの販売チャネルの変化を示す。今はまだ、各種販売チャネルが十分に機能している状態ではない。しかし今後、異業種からの参入が本格化することによって、イノベーションがイノベーションを呼び込む好循環が次第に醸成されていくだろう。

一見するとMNOの向こうを張ったような「安さ」の見せ方で格安スマホブームに乗り、既存通信ビジネスのパイを得るのも一つの戦略だが、結果的にブランドを損なう可能性を考える必要がありそうだ。それよりも、MVNOだからこそ実現可124第3部 通信事業者動向123456能なビジネスモデルを追求することの方に、今後の可能性が秘められているのではないだろうか。

図3 MVNO参入前と参入後の販売チャネル

出典:情報流通ビジネス研究所(http://www.isbi.co.jp/)

MVNOがMNOのサブブランドになったり、独立系MVNOとして独自の道を歩んだりする。NTT東西の光ファイバー網の卸売りも受けて、MVNOがFMC(Fixed Mobile Convergence)サービスを提供する。ビッグデータ時代に絡めた新しいビジネスモデルを創生する――。そうした数々のシナリオを前にすれば、今のMVNOが「格安スマホ」という代名詞を脱ぎ捨てる日は、そう遠くなさそうである。

(飯塚周一 株式会社情報流通ビジネス研究所 代表取締役所長)

(初出:インプレスR&D「インターネット白書2015」・2015年2月発行) ※記事の内容は掲載当時のもので、現在では異なる場合があります


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