情報流通ビジネス研究所
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03/16

【予告】「モバイルインターネット要覧2016」発行へ
モバイル市場の国内外動向と方向性を徹底分析した調査レポートの決定版が5年ぶりに登場へ。市場環境の激変とプレーヤーの事業モデルを展望する業界関係企業必携の報告書
2016年夏頃発行(予定)/全約400ページ/予価92,500円(税別)











 



 


IoT/M2Mの動向(2014/01/15)

FTTH やモバイルネットワークなどの通信回線を経由し、機械と機械との間でデータ通信を行うサービスを「M2M」(Machine to Machine)と呼ぶ。 遠隔で自動的に各種の測定や制御、センシングなどを行うというサービスは古くからあった。例えば、ガスや電力、水道におけるテレメトリング(遠隔検針)などは、アナログ回線の頃から行われている。

転機を迎えるM2M市場

とりわけ最近では、モバイルネットワークや機器の高度化に加え、クラウドサービスの登場によって、モバイルM2Mの適用領域が拡大し、その導入事例が増えつつある(資料5-1-1)。特にセキュリティへの活用や自販機の在庫管理といった分野での普及が進んでいる。

M2Mは、スマートメーターやスマートグリッド、あるいは将来のスマートコミュニティやスマートシティへの適用なども考えられている。すなわち、これから社会インフラの核としても位置付けられようとしている。M2M市場の普及拡大に向け、通信モジュールの小型化や低価格化が進む。

これまで推進されてきたM2Mは、企業や自治体向けの個別ソリューションとして販売・運用されるケースが多く、限定的な領域での適用にとどまっていた。そのためM2M市場は、着実に伸びてはいるものの、爆発的なマーケット拡大にまではいたっていない。しかし、いくつかの成長ドライバーを得て、転機を迎えつつある。

ウェアラブル端末/コネクテッドカーとM2M

まず挙げられるのは、一般消費者の利用を目的としたM2Mの用途開発が急速に進んできている点である。

例えば、スマートウォッチやスマートグラスに代表されるウェアラブル端末は、製品開発やアプリケーション開発が急速に活発化している。もともとウェアラブル端末は、1990年代後半より、航空機の保守・点検など一部の企業向けとしてすでに開発・運用されていた。

現在では、スマートフォンが普及してきたことから、一般消費者向けの利用を狙う製品が数多くのベンダーから出されるようになった。また、ウェアラブル端末から収集されるデータをクラウドで整理・加工し、それをスマートフォンやPCで確認可能としたり、アラートを送ったりというようなサービスを提供するアプリやプラットフォームも多く登場してきている。

消費者になじみのある分野では、クルマとの接点も高まってきた。最近になって、「コネクテッドカー」と呼ばれるようになってきたものがそれである。

クルマに搭載した通信モジュールから各種のデータを集め、データマイニングして走行状況やクルマの状態をフィードバックするようなサービスは、これまでも提供されてきた。現在ではそれに加えて、スマートフォンと連携しながらユーザーと密接な生活情報を提供したり、あるいはクルマの自動運転を支援するシステムのコアとしてM2Mを活用したりといった、各種の試みが盛んに行われている。

2015年1月、ラスベガスで開催された世界最大のIT・家電見本市「International CES 2015」でも、トヨタをはじめ、アウディやメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、フォード、GM などがコネクテッドカーを出展、さながらモーターショーの様相を呈していたという。コネクテッドカー関連の展示企業は、自動車メーカーにとどまらず、半導体や部品大手、ソフトウェア関連など、多彩な顔ぶれであった。

このようにM2Mは、通信事業者やSIベンダーが企業や団体向けに最適化した個別ソリューションを提供するB2B の事業形態にとどまらず、最終ユーザーを一般消費者に据えたB2CやB2B2C型のビジネスも本格的に加わってきたのである。

クラウド/ビッグデータ時代のM2M

M2Mの成長を支える2つ目の大きな推進エンジンは、クラウド/ビッグデータである。

パソコンやスマートフォン、タブレットといった端末では、クラウドと連携した多様なサービスが盛んに提供されている。この大きな流れにM2Mも乗ろうとしている。各種センシングや計測、制御など、M2Mデバイスから自動収集されるデータは、ネット上のクラウドに集積された膨大な量のビッグデータとなって活用されていく。

これからは、膨大なデータの集まりのなかから有益な情報を取り出し、それを加工・分析するデータマイニング技術の向上が期待されている。これによって、精度の高い予測や消費者動向の分析、新たなビジネスモデルや事業プランの確立、サービス開発が可能になっていくだろう。

M2Mでやりとりされるデータは、従来、特定の業務目的にのみ使用するため最適化され、かつポイント・ツー・ポイントやセンター・ツー・ポイントのような、閉じたネットワークのなかでのやりとりに終始するものが多かった。しかしこれからは、オープンなインターネット上のクラウドに逐一蓄積されていく、膨大な量のビッグデータを積極的に取り込む方向に進む。

今後は、当初導入したM2Mの目的とは何の関係もなかった情報を独自のパラメーターで抽出・分析し、別の切り口や分野で活用することも可能になると思われる。

Webに散らばるコンテンツを「人為データ」とすれば、M2Mで自動収集されオープンネットワーク上にアップロードされる各種センシングデータなどは、いわば「自然データ」と呼ぶべきものになっていくかもしれない。極端に言うと、これは無目的に収集され、無意味な集合として自然に溜まるだけであり、何の加工も施されていない、単に存在するだけのデータである。

そんな有象無象のビッグデータ時代の入り口が、M2Mによって開かれようとしている。今後は、こうした見立てができるかもしれない。

M2Mにおけるビジネスモデル像

ネットワークからサービス提供にいたるまでの各レイヤーには、それぞれのプレイヤーが存在している(資料5-1-2)。現在最も存在感が高いのは、アクセス回線を持つ通信事業者である。通信事業者はM2Mサービスのトータルコーディネータとなり、ネットワークの提供からプラットフォームの構築・運用、機器の企画や開発、調達までを行う。M2Mは通信事業者のサービスとして仕上がり、最終ユーザーに届けられる。

これは、現在のフィーチャーフォンと同じ事業モデルである。通信事業者は、自社の通信回線とM2M機器やサービスを紐付け、顧客の囲い込みを図りつつM2Mビジネスの拡大を狙う。通信事業者ならではの伝統的な垂直統合型ビジネスモデルである。

ただし、通信事業者の垂直モデルが思うほど機能しないことも少なくない。通信事業者があらゆる産業や企業のビジネスに精通し、それぞれに特化したM2Mのシステムコンサルティングを行えるのなら別だが、それは現実的ではない。労働集約的なビジネスモデルでもある。

さらには、個別事例を蓄積・発展させて事業の拡大を図ろうとするため、市場規模は限定的にならざるを得ない。

こうした領域では、各レイヤーに存在するそれぞれのプレイヤーがおのおのの専門領域で分業・協業しながら、サービスが組み立てられていく方が、ビジネスとしてうまく機能する。いわゆる水平分業である。

特定業界/業務に通じた専門機器ベンダーがネットワークだけ調達し、それ以外は内製化してM2Mを販売する。SIerがM2Mプラットフォームを構築する傍らで、機器やソフトウェアのパーツを仕入れる。多様な企業がMVNOとなって、M2Mを企画する。もともと自社用として運用していたM2Mシステムを外販する。M2Mのビジネスモデルは、決して一様ではない。

これからのM2Mは、分業体制の在り方が問われているのだ。

M2MとIoTの間にあるギャップ

M2M市場が急拡大の兆しを見せ始め、注目を浴びるようになってくるなか、ここ1~2年の間で急浮上してきたのが「IoT」(Internet of Things:モノのインターネット化)というキーワードである。最近では、M2Mも包含して、IoTや「IoE」(Internetof Everything)という呼ばれ方もされるようになっている。

これに対し、その概念や用語の使い方として、「M2MとIoTは一体何が違うのか?」との問いが出てきている。その点に関し、M2Mは機械間(モノとモノ)通信であり、IoTは機械のみならずヒトも含むあらゆる通信を指す広義の概念、とする捉え方がある。しかし、それでもやはり釈然としない点は残る。

現在、IoTの普及・拡大を目指して、さまざまな業界団体によるアライアンスが形成されている。ただ、それはIoTというよりも、以前から存在していたM2Mビジネスの延長に近いようにも見える。技術の仕様化も含め、今のところ実質的にM2Mの拡大や最適化を目指す動きと、IoTの世界観や思惑が混然一体としている。

今の光景は、かつて通信ネットワークで電話がメインストリームだった頃、次のフェーズはデータ通信と目されていた状況に近いかもしれない(資料5-1-3)。

例えば、当時の国内通信事業者は「これからはデータ通信の時代」というスローガンを掲げ、そのためにISDNの普及・拡大を図ろうとした。そして、主にB2B 領域における導入事例を積み重ねることに腐心している。企業向けのデータ通信がメジャーになれば、そのうちISDNはコンシューマ市場での利用機会も広がっていくであろうという目論見である。

しかしその後、データ通信であることには違いないが、まったく毛色の異なるインターネット時代が急に訪れた。ISDN で取り組まれていた「データ通信」の市場観やビジネスモデルとは非連続的な、企業や個人の別を問わない巨大マーケットが急速に立ち上がったのである。
 アナログ時代に掲げられた「データ通信」の姿とインターネットの間には、明確な溝があった。今のM2MとIoTの関係は、まさしくそのような状況ではないだろうか。

ISDNのケーススタディや規模拡大の延長にインターネットの世界はなかった。同様に、M2Mの事例蓄積やビジネスモデル、戦略の延長にIoTの世界を置くことには、多少なりとも無理があるようにも思える。IoTの時代における囲い込みやイニシアチブの確立を狙って、業界標準的な活動も出ているが、そうした目論見は果たして叶うのか。そんな疑問の余地がある。

こうした視線で、各社の取り組みや関わり合い方の現状を見ると、今はまだ思惑にとどまっている風に映る。入れ替わりの激しい混沌としたマーケットのなかで、立ち止まっているわけにもいかない。そのため、各社とも走りながら将来に向けた陣形を組み立てようとしている。しかし、それが勝者になるための切符になるのかすらおぼつかない。そんな程度の眺め方が正解なのかもしれない。

すでに確立しているビジネスモデルや市場シェア、影響力を貫き通す巨大企業がIoT時代でも優勢を保つのか、多産多死型の小規模プレイヤーが相互連携や共生によって、結果的にIoT時代の一大勢力になっていくのか、予断は許されない状況にあるといえる。

飯塚 周一 株式会社情報流通ビジネス研究所・代表取締役所長

[初出:インプレスR&D「インターネット白書2013-2014」・2014年1月発行] ※記事の内容は掲載当時のもので、現在では異なる場合があります


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