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特集「モバイル・ソーシャル」アプリビジネスの特質と参入戦略(第5回)(2011/01/28)
ソーシャルは万能薬ではなく、コンテンツのカテゴリーにより向き・不向きの相性があり、サービス化の手法もコンテンツのカテゴリーにより異なる。ソーシャルサービスに最も向いたコンテンツは、実績が示す通りゲームである。

(4)ソーシャルビジネス化とコンテンツジャンル別戦略

ゲーム・時事ネタがソーシャルになじむ理由

ゲームは元来人為的なコミュニケーションやインタラクションにより進行するもので、従来ゲーム機器においてはパッケージソフトにその生成ロジックが組み込まれていた訳だが、ソーシャルゲームにおいては事業者側の提供するイベントや運用段階でのゲームロジックの改変・追加、他のメンバーとの競争・協調がコミュニケーションやインタラクションの生成要素として加わる。

事業者側の提供するロジックとメンバー間の競争・協調行動の組み合わせによって、メンバー間に連帯感を人為的に作り出しておき、時に格差意識を刺激する時限性のあるイベントや希少性のあるグレードアップアイテムを紛れ込ませることで、課金支出を作り出す盛り上がりを自然発生的に生み出すことができる。

またゲーム以外でも、①購買意志の形成に当たって主観的・情緒的な判断が主に作用するコンテンツ、かつ②情報が動的・一時的に大きな価値を持つコンテンツ――は、リーダーの先行行動とフォロワーの追随行動が生み出されやすい。

そのため、コミュニティの中で格差をメンバーに意識させその格差を縮小(下位階層に対し)もしくは拡大(上位階層に対し)させるアイテムを提供することで、課金支出に誘導できる可能性が高いと言える。例えば、政治・スポーツ等の時事ネタや占いは、こうした条件を満たすだろう。

ゲーム以外におけるソーシャル化の適用性

また、上記の①ないし②の要素が当てはまるコンテンツも、部分的にソーシャルサービスへの展開可能性が考えられる。例えば①の要素が当てはまる音楽の場合は、これまで所有・保存されるコンテンツだったパッケージ(CDやDVD)へのニーズが減退する一方で、楽曲自体をじっくり味わうよりも携 帯電話を通じ、(しばしば)友人たちとノリや雰囲気を楽しむサービスとして利用する着メロや着うたが2000年以降発展してきた。

今後は、無料でも参加できるが、オプションアイテムを購入するほどアーティストや他のファンとの距離が縮まり、パフォーマンスをより深く楽しめるような、ライブハウス的なサービスが展開されることとなろう。

なお、音楽不況といわれる中でもリアルなライブイベントの市場が堅調に推移していることは、こうしたサービスへのニーズを窺わせる先駆けと考えられる。マ ス消費者に対する楽曲は無料化もしくは低額化していく中で、一部の熱心なファンは惜しみなくイベントのチケットを買い、更に関連グッズを買い込み、それによりアーティストとの距離が縮まった実感に歓びを覚えている構図は、音楽におけるソーシャルサービスの潜在性を示しているとも考えられよう。

また、②の要素が当てはまる飲食店情報の場合、かつては書籍・雑誌による保存版の情報しかなかった分野に、フリーペーパーやインターネットといったデリバリーコストが安価で伝播力の高い媒体を活用した、鮮度の高い(一時的な情報価値を持つ)クーポン情報が入り込むことで、「衝動買い」的な来店促進手法が発展してきた。

今後は更にこの手法が高度化し、場所や時間を限定したプレミアムクーポンや、人数が集まれば割引・優遇が増すタイプの飲食店情報が、特にモバイル媒体(リアルタイム性が高く、GPSで位置情報とのマッチングも図れる)において発達する見込みである 。

こうしたTPOへの依存性の高いコンテンツにおいては、コミュニティの中でその存在をいち早く入手したメンバーが情報格差の上位に立つ情報の非対称性が生まれるため、それをコミュニティにおけるヒエラルキー構造と組み合わせることで、ソーシャルサービス的な課金への展開可能性があるものと思われる。

このように、ゲーム以外のコンテンツでも、コンテンツに希少性や時限性及び他のメンバーとの連鎖性の要素を取り入れることで、市場を拡張できる可能性のあるコンテンツは多岐にわたるものと思われる。

ソーシャル的な「煽り」の限界とそのリスク

誤解を恐れずに表現すれば、ソーシャルサービスでの収益化手法とは、コンテンツに派生する様々なフロー情報をシャワーのように無料で大量放射し、時に 「滴を垂らさせる」ように希少性・時限性のある特殊体験の機会を提供することで、メンバーの間にヒエラルキー構造を形成し、話題の「渦」の中心に位置する上層メンバーへの羨望や渇望感を煽りつつ、主観的・衝動的な判断を迫り、特殊体験への支出を促す仕掛けと言える。

この仕掛け方は、ネットサービスが台頭する前の時代から、TVにおけるマスへの露出と、新聞・雑誌媒体等を使った業界内の「噂」のリークの組み合わせに よって、芸能人への関心を盛り上げ、コンテンツ消費を生み出すという、芸能界が長年行ってきた手法と本質的構造は変わらない。

両者間の相違点としては、①マスメディアに頼らずともSNSを使って業界外の一般人を、情報の増幅・伝播役として活用することが可能になったこと、②TV電波利権と絡む芸能界以外の小勢力・新興勢力にも、こうしたヒエラルキー構造を形成できるようになった――という点が挙げられる。

コンテンツ企業としては、元のコンテンツから派生した様々な情報を、SNS上で伝播・増幅させることで、電波利権に頼らずとも新たな消費のムーブメントを 生み出すというのは、ひとつの大きなビジネスチャンスになり得る可能性を秘めている。

ただ一方で、この手法のみに依存することは、コンテンツそのものの深化よりもフロー情報の大量放射や特殊体験の生成に傾斜するあまり、元のプロダクトの世界観に変質化・俗化のダメージを与え、陳腐化を早めてしまう恐れや、 ファンを刺激し過ぎて「疲れ」や「飽き」を早めてしまうリスクもはらむ。

ソーシャルサービスでの収益化のため、コミュニティに積極的に煽り・刺激を仕掛けることが、自社プロダクトに対するポリシーと整合しているか、あるいはソーシャルサービスによって情報の巡りをよくすることで、元のプロダクトの価値の向上・延命効果を生むフィードバックの仕組みを組み込めるか否かが、既存のコンテンツ企業がソーシャルサービスへ本格的に踏み込めるかどうかの重要な分岐点になる。

その判断によっては、敢えてソーシャルへの舵は切らない、もしくは「ほどほど」にしか使わない消極的な戦略オプションというのも、十分に合理的だといえる。
(文/情報流通ビジネス研究所 SNS・ソーシャルアプリG+梶村  徹)

※本記事は、情報流通ビジネス研究所発行レポートの内容を不定期で掲載しているものです。同分野における経営企画や事業戦略、サービス企画等に携わる方々には、「モバイルSNS/ソーシャルアプリの事業分析と市場規模予測」(コンプリート版)のご活用をお勧めします。

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