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特集「モバイル・ソーシャル」アプリビジネスの特質と参入戦略(第4回)(2011/01/27)
インターネット登場以前において、コンテンツビジネスのボトルネックは「デリバリー」であった。紙であれCDやDVDであれ、コンテンツを物理的なメディアにプレスし消費者のもとに届けるためには、生産・流通体制の整備・維持に多大なコストがかかることから、消費者はコンテンツ代金と言う名目で、実は制作コスト(出版で言えば印税)をはるかに超えるデリバリーコストを負担してきたのである。

(3)ソーシャルサービスの収益化モデル

体験・表現の「アップグレード」による収益化

しかしブロードバンドインターネットではコンテンツのデリバリーコストは非常に小さくなり、ボトルネック性は消滅へ向かう。その必然的結果として、これま では地上波放送でしか成り立たなかった広告収入のみでの運営モデルや月額数百円程度の少額課金モデル、更には最近では基本無料・オプション有料の「フリー ミアム」課金モデルが、コンテンツビジネスの投資回収手法として発達してきた。

ソーシャルサービスの場合は、こうした投資回収モデルの変化が更に突き詰められることになる。なぜなら、メンバーの行動・体験および他者との関係性を数多 く作り出すことが、サービスの価値創出に不可欠となる以上、情報利用・流通への課金や制限は極力回避される必要があるからである。

そこでソーシャルサービス上では、情報利用・流通自体には課金や制限を原則適用せず、逆に情報利用・流通をひたすら活性化させていく。代わりにメンバーの 参加体験や自己表現をアップグレードするアイテムを、オプションとして有料提供し、一部のメンバーから選択的に収益を得る手法がよく用いられる。

「作物の育ちが速くなる」「戦闘力がアップして勝率が上がる」アイテムや、自己表現を演出するアバター、デコレーションアイテムへの課金が、その例であ る。また、メンバーに対する勲章制度やアイテム収集等のミッションとは、こうしたアップグレードアイテムの価値を高めるための仕掛けである。

言わば、演舞の鑑賞は無料開放して熱気を盛り上げる一方、料金を払いグッズを買ってくれる熱心なファンには特等席と握手で歓待し、更には長年の熱心なファ ンには「ファン代表」としてステージでスポットライトを浴びる機会さえ与えるかのような手法である。リアルなパフォーマンスでは施設料金の関係から採算が 合わないこの手法は、空間の拡張が無限に可能であり、それに追加コストのかからないインターネットで可能になる。

ソーシャルサービスのヒエラルキー構造と課金メカニズム

ではこうした体験・表現のアップグレードのための課金アイテムが、なぜソーシャルサービスで次々と購入されるのだろうか。先に説明したような、ソーシャルサービスに生じる群集心理が作用している。

まず挙げられるのが、新たな魅力的なアイテムの登場に対する、オピニオンリーダーによる先行体験とフォロワーの追随という反応から生み出される集団的な購 買行動パターンである。これは、農園系ゲームでのアイテム購入や、iPadのような新製品の人気が沸騰する際に見られる。先行→追随という集団行動を繰り 返し行わせることで、オピニオンリーダーには集団の先駆者として認められた満足と自尊心が、フォロワーには憧れのオピニオンリーダーと共通体験をもてたこ とによる満足感・一体感が生まれる。

もう1つのパターンは、外敵の脅威をきっかけにしたリーダーによる警鐘・指導と、フォロワーによる追随による戦闘力の集団的強化(そのための戦力の購入) である。これは、戦闘系ゲームや、「これを買わないと時代に乗り遅れますよ」と言われるようなトレンド商材が売れるケースに見られる集団行動パターンであ る。

これらはどちらも、コミュニティとしての連帯意識と、コミュニティ内のリーダー・フォロワー間の格差意識を縦横の糸のように交互に刺激することで、商品や 課金アイテムの購買を煽っている点で性格が共通する。すなわちソーシャルサービスでは、コミュニティにおいて上級階層のメンバー(リーダー)は他のメン バーから尊敬・尊重される座を維持するため、中級・下級階層を先導し庇護する行動を促され、その立場を守り強固にすることを動機として、新商品・新アイテ ムの購入が促される。

また中級階層(レギュラー)のメンバーにおいては、上流階層への追随行動を契機に、商品・アイテム購入等に誘導される。さらには、口コミで新たな下位階層 メンバー(新参者)を呼び込み、常に新たなコミュニティの拡大と階層構造の維持がなされる仕掛けが仕組まれている。したがってソーシャルサービスは、コ ミュニティのメンバーであれば一見誰でも平等に利用できる敷居の低いユートピアに見えて、実はヒエラルキー構造が仕組まれたコミュニティといえる。

群集心理に対する煽りになじむモバイルサービス

前述したようにソーシャルサービスにおいては、コンテンツを利用・流通する行為は原則無料で開放し、代わりにその体験を「アップグレード」させるアイテム に対し課金を行う。こうした支出は、コンテンツを利用する上で必須ではなく、選択的支出の範疇に入る。したがって、消費の判断基準が理性よりも主観・衝動 に支配される場合や、時限性に迫られ少ないオプションから行動を選択せざるを得ない局面等、群集心理への「煽り」の効くシチュエーションで力を発揮する。

ソーシャルゲームにおいて、基本無料、アイテム課金での収益化というサービスの組立て方が共通にも関らず、PCを中心とするFacebookやmixi と、モバイルに特化したモバゲーやGREEで課金ARPUが1桁違う要因の一つは、自宅や会社等のまとまった時間で内容がじっくり吟味されながら合理的に 情報が選択されることの多いPC上のサービスとは対照的に、モバイルサービスが短い隙間時間のうちに、小さな画面上の限られた情報をもとに、群集心理に煽 られた刹那的・情緒的な選択がなされることが多いことにあろう。

また、米国でPC上のFacebookが課金サービスの雄として台頭し、他方日本ではモバイル上のモバゲー・GREEが先行者となったのは、こうした「煽 る」サービスを実現する上で不可欠な、定額料金で高速すなわち反応性が速いモバイルブロードバンドサービスの普及時期の違いが影響しているのであろう。

その意味で、ソーシャルビジネスにこれから参入しようとするコンテンツ企業は、モバイルにフォーカスし、課金まで含めた出来るだけモバイル内の簡易な操作でサービス利用が完結できるサービスを構築するのが基本戦略になるだろう。
(文/情報流通ビジネス研究所 SNS・ソーシャルアプリG+梶村  徹)

※本記事は、情報流通ビジネス研究所発行レポートの内容を不定期で掲載しているものです。同分野における経営企画や事業戦略、サービス企画等に携わる方々には、「モバイルSNS/ソーシャルアプリの事業分析と市場規模予測」(コンプリート版)のご活用をお勧めします。

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