情報流通ビジネス研究所
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モバイルネットワークと事業環境の変化(モバイルインターネット要覧2011より)(2010/12/02)
情報流通ビジネス研究所は「モバイルインターネット要覧2011」を発行し、モバイル市場における5年後までの各種分析と予測を行った。LTEやDC-HSDPAの開始に加え、スマートフォン需要の高まり、モバイルSNS/ゲームの成功など、iモードに沸いた2000年代のパラダイムが大きく転換するとしている。さらには海外との関係も重要度を増し、事業変数がより複雑化・多次元化しているという。レポートのエッセンスを交えながら、モバイル産業の新たな輪郭を順次読み解いていきたい。

高速ネットワークへのマイグレーション

2009年7月、KDDIのグループ会社であるUQコミュニケーションズがTDDバンドで下り最大40MbpsのモバイルWiMAX(IEEE802.16e)をサービス開始したのを皮切りに、2010年後半よりセルラー系システムにおいても各社がモバイルネットワークの高 速・高度化を図っている。

KDDIは2010年11月より、従来のCDMA2000 1X EV-DO Rev.Aの搬送波をマルチキャリア化し、約3倍の9.2MbpsとするCDMA2000 1X EV-DO MC「WIN HIGH SPEED」を開始した。しかし、他社のHSPAを大幅に上回るオーダーでもなく、またすでにイー・モバイルがHSPA+(最大21Mbps)を提供していることもあり、2012年度より開始予定のLTEまでは、スペック的に見劣りする状況が続く。

図1 国内事業者におけるインフラ高度化の予想と海外の動き
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出所:情報流通ビジネス研究所

ただハンドセット端末としては、ドコモが2011年度に投入を予定しているLTE音声端末が出るまでは、他社のHSPA音声端末を凌ぐ最速のサービスを提供する形となる。同サービスは、データ通信専用サービスとしては提供されず、データ通信向けとしてはUQのモバイルWiMAXを用いたサービスで市場の要望に対応していく。

2010年12月からは、イー・モバイルが現行HSPA+の拡張版であるDC-HSDPAサービス「EMOBILE G4」(下り最大42Mbps)を開始、続いてドコモがLTEサービス「Xi」(同37Mbps、一部構内で75Mbps)をスタートさせる。翌2011 年の2月には、ソフトバンクがイー・モバイル同様にHSPAのアップグレード版となるDC-HSDPAサービス「ULTRA HIGH SPEED」(同42Mbps)を開始する。

流動的なTDD帯ネットワークの行方

TDDバンドにおいては、先に挙げたUQコミュニケーションズのモバイルWiMAXや、ウイルコムの推す「XGP」において高度化に向けた取り組みが行われている。

モバイルWiMAXの高度化バージョン「WiMAX2」(IEEE802.16m)は、ITUから4Gとして採択されている。下り最大300Mbpsオー ダーを叩き出し、従来ややネックとされてきた高速ハンドオーバーもセルラー並みとすることで、現在の携帯電話系ネットワーク高速化の動きを、商用化ベースで一歩リードしていくものとみられる。セルラー系に比して、脆弱といわざるを得ないエコシステムの拡大・強化が今後の課題である。

国産のXGPも高度化バージョンについての検討が進んでいる。次の「XGP2」では、上り伝送方式にLTEでも用いられているSC-FDMAや、使用周波数帯域幅20MHzといった項目が追加され、仕様としてはLTE(TD-LTE)に近づいた格好である。

ただし現在の段階では、XGP2の採用がすなわちTD-LTE導入、ということに直接結び付いているわけではない。BWAたるXGPへの周波数割り当てを、そのままTD-LTEに変更することは、制度的にみて相応の手続きを要することに加え、TD-LTEへの転換に反対する向きもあるなど、今後の見通しは未だ不透明さを拭えない。もっとも、技術的マイグレーションの方向性としては、「XGPのTD-LTE化」が進行しているとみて差し支えない。

現実のネットワーク・オペレーションベースでこの問題をどうクリアしていくかは、流動的要素が多いが、中国TD-LTEのサービス開始予想時期に照らし、国内ではXGP2の次のステージで、事実上TD-LTEが運用されていくものと予想する。

多次元化するモバイル市場の環境変数

以上、各事業者はより高速かつ高度なネットワークへのマイグレーション計画を打ち立て、将来に向けた事業の布石を着々と打っている。従来、モバイル市場に おけるネットワークの高度化は、事業者のみならず関連するプレーヤーにとっても、今後の事業を進めていく上で最も重要なポイントになっていた。

それというのも今までは、インフラ設備を保有する者がモバイル業界における全てのレイヤを仕切る、いわゆる垂直統合が壮大なスケールで行われていたからである。

しかしここ数年、通信事業者のインフラを起点とした事業モデルが、必ずしも全てではないという動きが出始めてきたことは言うまでもない。例えば上位レイヤでは、事業者との関係の枠外でSNSサービスやモバイルゲームを展開するDeNAやGREEといった、第二世代のプレーヤーが爆発的にユーザーを獲得し、すでに一大プラットフォームとしての役割を果たすまでの存在になってきた。

図 モバイル市場の事業レイヤと環境変化
 
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出所:情報流通ビジネス研究所

端末レイヤにおいても、国内においては通信事業者が、海外ではノキアを始めとするグローバル端末ベンダーが主導する形でエコシステムが形成されていたが、それもiPhoneのような革新的UI/UEを提供する端末とコンテンツ流通の組み合わせや、オープンソースOSの登場によって、従来の事業構造が大きく塗り替わろうとしている。さらには、ライフログやソーシャルグラフを用いたビジネスも、事業者の独壇場という構図が崩れつつある。

とどのつまり今後は、通信事業者の展開するインフラ起点の統合モデルに加え、各レイヤを端緒にした統合化やレイヤ間をまたぐ事業モデルなどが混在する、大きな環境変化が訪れようとしている。そのなかでモバイル市場に関与するそれぞれの企業プレーヤーは、通信事業者のネットワーク・マイグレーションだけにとどまらず、多様な変数を眺めながら今後の事業シナリオを組み立てていく必要が出てきているといえよう。

図 事業モデルの構造変化
 
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出所:情報流通ビジネス研究所
図 テレコム系企業に閉じたエコシステムにおける今後の変化
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出所:情報流通ビジネス研究所

逆にいえば、通信事業者は自らのインフラを中心に据えたビジネスモデルの転換を迫られている。モバイル業界に隣接した多彩な市場と、そこからイノベーショ ンを伴った新規参入プレーヤーの振る舞いを、今まで以上に注視し、複雑なパラダイムのもとでの絶妙な舵取りがますます要求される局面に入ったといえるだろう。
モバイルインターネット要覧2011・第2章-3 「移動通信キャリア各社の戦略分析」より抜粋 →詳細

(文/株式会社 情報流通ビジネス研究所 所長 飯塚周一)

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