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特集・ガラパゴス携帯市場の本質(モバイルインターネット要覧2006より)・第1回(2010/10/27)
最近は「ガラパゴス携帯」という言葉が独り歩きし、ことの本質を曲解した議論も少なくない。ガラパゴス現象とは一体何だったのか。原点に立ち返るべく、2006年発行のレポートを2回にわたって全文公開する。掲載データや内容は古いが、5年前に指摘した点はさほど変化していない。LTEへの端境期である今、3Gの失敗を繰り返さないためにも、一読いただきたい。
1. 国内携帯電話端末メーカーの"惨状"分析 (1)事業者圧力でさらに消耗する国内メーカー ①販売台数減を招いたドコモの調達抑制 2005年度上半期(4-9月)における携帯電話端末の国内出荷台数は、前年度(2004年度)上期比2.6%減の約2116万台に終わり、前年度に大きく落ち込んだ実績を若干ながらも、さらに割り込む結果に終わった。(図表1)長年待ち望まれていた3G端末への需要が、確かな軌道に乗りながらも、全体としては低調な販売台数に終わった最大の要因は、市場の過半以上のシェアを占めるNTTドコモが販売インセンティブ費用削減のため、端末調達・販売の抑制を進めていることにある(図表2)。 図表1 携帯電話端末の国内出荷台数・半期毎推移 出典:JEITA資料より情報流通ビジネス研究所作成 図表2 ドコモ/auにおける端末販売数の半期別推移(2003年上期~2005年上期) 出典:各社資料より情報流通ビジネス研究所作成 PDCからW-CDMAへの移行が本格局面に突入したドコモにとって、調達単価がPDCに比べ1万~2万円のレベルで高価な、W-CDMA端末に対する販売インセンティブ負担をどう抑えるかという課題は、加入数・売上成長の鈍化傾向が鮮明となるなかで、利益を確保するための最優先の経営課題となっている。 そこでドコモは、端末の手数料水準の見直しや流通在庫管理の精緻化による小売価格の引き上げ、新規・買替における小売価格のバランス是正などによる「解約即再加入」の抑止、そして電池交換の無料化による買替サイクルの長期化誘導――など、実にさまざまな施策を繰り出した。これらによって、新規販売シェアの低下に極力ダメージを及ぼさない形で、販売数量の削減を図っている。 実質的にはドコモ市場ともいえる国内の市場パイ縮小とともに、端末メーカーのシェアにも変動が見られる(図表3)。具体的には、NTTドコモ向けとして2強の座に君臨していたNEC・PMC(パナソニック モバイル コミュニケーションズ)が、シェアを落とす一方、シャープや東芝がボーダフォン向けの納入を伸ばし、相対的に浮上した格好である。 特筆されるのは、キャリアとしては不振だったボーダフォン主力メーカーの健闘が目立つ一方、好調なKDDIメインのメーカーが、シェア争いで上位に入っていない点である。後述するように、経営戦略の迷走でメーカーに対する調整力を失ったボーダフォンに巧みに取り入り、三洋や三菱などが占めていたシェアを食う形で、販売数を伸ばしたシャープ・東芝に対し、ドコモやKDDIに対して律儀に義理立てを続けたメーカーに、"大勝ち"の機会は与えられなかった――と、みることができるだろう。 この1~2年、ドコモやKDDIは親密な端末メーカーに対する支援や結束力強化のための施策を打ち出している。例えばドコモの場合、端末メーカーに対する開発費の拠出、OSやソフトウェア・プラットフォームの共通化を図った。そして、このような施策を相次いで打ち出す一方では、新規納入メーカーの参入を段階的に呼び込んでいる(図表4)。 図表4 国内キャリアに対するメーカーの新規参入状況(2004年以降) 出典:情報流通ビジネス研究所 こうしたキャリアの動きは、一見すると矛盾するかにも映る。が、いずれも端末の高機能化や3G化により、高騰が著しい端末調達原価を抑制するという、首尾一貫した目的のもとで行われている。すなわちドコモやKDDIは、開発効率化のためのイニシアチブをとることで、脱落メーカーが出ないように全体を下支えする一方、納入メーカーを増やしてより激しく競わせる。そこから生じた開発効率の向上という成果を、メーカーではなく、自らに還元されるよう取り計らってきたのである。 NTTドコモ向けで、NEC・パナソニックという上位2社のシェア低下が鮮明な一方、下位メーカーである富士通や三菱が踏ん張っているのも、KDDI向けで納入メーカー間に大きなシェア突出がみられない裏にも、キャリア2社の端末メーカー政策が透けて見える。 例えば、富士通や三菱の業績を支えているのは、ドコモのシンプル端末「らくらくホン」とも言われる。メーカーにとっては、このような安価な開発費かつロングセラーの"おいしい商材"を、わざわざ下位メーカーに割り振っていることが、ドコモのメーカーに対する「生かさず殺さず」のポリシーを象徴していると言えよう。 こうした"宛がい扶持"政策の帰結として、勝ち組が負け組を駆逐しながらシェアを大きく伸ばす、他のエレクトロニクス商品では当たり前のメーカー自然淘汰の原理が、日本市場では健全に機能しない――という状況に、辿りつくのである。もちろん、グローバルベースの携帯電話市場では、当然にして起こっていることはいうまでもない。 そして国内市場の妙な構造の代償として、全てのメーカーが等しく疲弊するとともに、国内市場でのドミナント化や海外市場に対する積極投資など、"前向き"の事業展開に踏み出せないという、メーカーとして本来備えているはずのDNAが封殺されたままの好ましくない状況は、ますます顕著になってきているのである。 (2)海外市場で吹き荒れる縮小・撤退の嵐 ①5年間で決定的となった国際市場での凋落 2001年8月、NEC・松下電器・松下通工(現PMC)が開発提携を発表した時、NECの西垣社長(当時)は、両社の開発プロセスを共通化することにより、グローバル市場で「ノキアの対抗勢力として勝ち上がっていける」と豪語した。 当時からノキアのグローバルベースでのシェアは突出していたが、それでも2位モトローラ以下との差を考えると(図表5)、W-CDMAの本格的な普及とともに、NEC~パナソニック連合がノキアに続くグローバルプレーヤーの座を目指すことは、あながち夢物語でもなかったといえるだろう。 しかし実際には、この5年でグローバル市場が台数ベースで約2倍にまで拡大(2005年・約8億台到達の見込み)するなか、国内メーカートップのバナソニックは、シェアはもちろん出荷台数自体でみても大きく後退している。2000年の出荷台数が約2100万台強に対し、2005年の出荷台数は1500万台程度である。サムスンやLGといった韓国メーカーの躍進を尻目に、日本の端末メーカーはもはやグローバル競争から完全に脱落しようとしている。 図表5 グローバル市場でのメーカー別出荷台数シェアの5年前との比較 ②大誤算だった海外向けW-CDMA戦略 この5年における国内メーカーの最大の誤算は、欧州や中国市場でのW-CDMA普及に照準を合わせた市場参入シナリオが、W-CDMAの予想以上の不振で崩れたことに他ならない。 実のところ2004年には、いったん欧州市場でW-CDMA端末普及の機運が高まった時期があった。欧州においても2003~2004年にかけて、カラー液晶・カメラ付などの高機能端末への需要が定着する一方、日本ではドコモが本命の900iシリーズを投入し、W-CDMAの普及をようやく軌道に乗せたことを受け、多くの欧州キャリアがデータ通信市場のさらなる拡大によって、ARPUの底上げに向け、3Gネットワークの本格稼動とW-CDMA端末の販売に踏み出したのである。 特に、日本市場を擁する欧州最大のオペレータであるボーダフォンは、2004年のクリスマス商戦で積極策に出ている。3G用の非音声サービス「Vodafone Live! 3G」を13カ国で開始、10機種のW-CDMA端末を取り揃え、グローバルな規模のメリットを生かした3G市場での先行優位を狙った。こうしたオペレータの意欲を見て、日本の端末メーカー以外にも、モトローラやLG、サムスンなどがW-CDMAへの需要増大を機に、ノキアの圧倒的なシェアを奪うべく、オペレータ向けW-CDMA端末の納入拡大を競い合ったのである。 しかしW-CDMAは、ネットワーク稼動数だけは2005年9月末現在で94と確実に増えたものの、ユーザーの支持を集めることはできず(図表6)、欧州をはじめ海外におけるW-CDMAへの期待は、再び萎えることとなった。これは日本でも起きた自然な現象で、ユーザーから見てW-CDMA独自のサービスにさしたる魅力が伴っていない以上、敢えて追加費用を出してまでW-CDMA端末を買い求める必然性はない。 図表6 W-CDMAのグローバルでの利用者数の推移 出典:情報流通ビジネス研究所 ③LG/モトローラの攻勢で先行優位も崩壊 日本の場合、余力を持て余すドコモは、その威信をかけて大々的なプロモーションを行うとともに、極めて高額な販売インセンティブの"大盤振る舞い"という力技で、悲願の3G市場を立ち上げた。しかし、ドコモの振る舞いとは対照的に、収益に関し合理的判断を行う欧州オペレータにおいては、W-CDMA端末の調達価格が今後大幅に低下するか、付加価値をアピールできるキラーアプリケーションが現れない限り、3Gの積極的な拡販を再開する理由はなくなってしまったのである。 3G(UMTS)では、GSMに比べ周波数効率がよいため、音声品質をコスト効率的に高めることができるため、今や一部からは「3Gのキラーアプリケーションは音声」――との揶揄が聞かれるほどである。 日本のメーカーにとって、海外W-CDMA市場の不振以上に、その小さなマーケットですら競争力を確保できていない点も、痛い。例えばNECは、UMTS専業で新規参入したハチソングループ(H3G)と、出資関係(総額7300万ドルを出資)を結ぶほど親密な関係にあり、インフラ設備の納入に成功しただけでなく、端末の納入でも当初トップベンダーの位置にあった。が、その後LGやモトローラなどが仕掛けた価格攻勢によって、現在もはや主力ベンダーとの面影はない。 その他の日本メーカーでは、シャープがボーダフォン向け主力ベンダーの地位を保つものの、出荷台数は停滞し、価格引下げ圧力から収益性が低下している。また三洋も、フランステレコム傘下のオペレータであるオレンジ向け納入を発表しているが、販売実績は低調な模様である。 ④世界の最大市場GSMからも実質的に撤退へ そして世界の主戦場であるGSM市場では、日本メーカーはもはや総崩れといってよい状態に陥っている。とりわけ、日本勢ではトップシェアであったパナソニックの海外事業大幅縮小は、日本の携帯電話メーカーがグローバルでの競争力をもはや喪失していることを、はしなくも象徴した格好といえるだろう。 2006年、「販売1兆円・4000万台(台数で2003年度比2.5倍)、端末台数世界シェア8%以上、営業利益率5%以上――という目標を掲げ、国内PDC中心の事業構造から、グローバルに通用するGSM/W-CDMA中心の事業構造への脱皮を宣言した2004年初頭からわずか1年半後、パナソニックはフィリピン/チェコ/米国における開発・生産拠点の閉鎖など、GSM方式からの段階的撤退を主旨とする、リストラ策の発表に追い込まれた。 同様に、NECの不振も深刻である。NECは2004年春、中国市場を最大の注力市場とみなし、世界戦略の核と位置付けた。そして開発・生産拠点、販売網の拡充に多額の投資を行うことで、「2005年に500~600万台を販売し、中国市場におけるトップ3メーカーに入る」――との目標を掲げている。 しかしフタをあけてみれば、地場メーカーや海外メーカーあいまみれての競争が熾烈さを増すなか、価格競争と大量の流通在庫に悩まされ、目標に遠く及ばない年間200万台以下の水準にとどまる見込みとなっている。欧州ハチソン3向けの出荷数減なども影響し、パナソニックと同じく2005年秋に、海外事業大幅縮小の意向を表明するに至った。 フランスの携帯電話開発子会社を2005年春に解散した三菱電機と合わせ、結果として日本の端末メーカー(ソニーエリクソン除く)は、世界の最大ボリュームマーケットたるGSM市場での競争からも、実質的に脱落することとなったのである。ここには、国内市場のような"宛がい扶持"など、当然あり得るはずもない。 競争力なきメーカーは、退出を余儀なくされるという他分野なら当前の市場原則に、おしなべて日本の端末メーカーはひれ伏したかのごとく映る。 ⑤CDMAメーカーのビジネスも曲がり角に 他方、GSMと渡り合うCDMA市場においては、どうだろうか――。北米オペレータのスプリントPCS向けに、親密なメーカーとして食い込んだ三洋電機は、国内メーカーで最も希望を持たせる存在であったといえる。 北米市場は、日本似たオペレータ主導型の端末調達・流通体制が敷かれていることや、CDMA端末の場合ではKDDI向けとの技術共通性が高いことから、三洋の戦略は他のメーカーに比べ、無理のない賢明な選択だったといえよう。とりわけチップやソフトウェアにおいて、クアルコム製品を使うことで独自の開発負担が抑えられる点が大きなメリットである。 ただし、GSM市場ほどでないにせよ、CDMA市場においても販売競争の激化と価格低下が進展していることは明らかである。そのため、他のグローバルメーカーと比較して、コスト競争力で優位とはいえない三洋の勢いは、2005年に入り明らかに鈍っている。 スプリントPCS向けにおいては、三洋が得意としてきた高機能機種に比べ、他のグローバルメーカーと横一線の競争にさらされる中低価格帯機種の比率が増している。北米のベライゾン・ワイヤレスや中南米、アジアといったスプリント以外のCDMAオペレータの攻略がさしたる進展を見せていないことと合わせ、三洋の海外事業にも徐々に暗雲が立ち込めているといえよう。 他方で京セラは、中南米向けが小規模ながら比較的好調だが、大幅な赤字をここ数年計上し続けている北米子会社(KWC)のリストラ(開発・生産の外部委託)に追い込まれている。 もともと端末流通におけるオペレータの影響力が強く、データ通信需要も近年急速に本格化し始めた米国市場は、日本での経験が比較的生かしやすいはずである。しかし、北米CDMA市場でのトップシェア獲得に成功したLGの大躍進とは対照的に、日本のメーカーはなかなか勢力を伸ばせない。前項同様、CDMAにおいても日本メーカーのグローバル市場での実力が、よく映し出されている。 (3)悪化する端末事業の経営状態 ①構造的問題となった収益力の低下 国内市場におけるキャリアからの端末調達費用圧力の強まり、そして海外市場での競争力喪失を受け、国内端末メーカーの2005年度上期の業績は、メーカーによる個別性はあるにせよ、全体では不振だった2004年をさらに下回る業績となった(図表7)。 特に、国内端末メーカーに暗い影を投げかけているのが、後退続きの海外事業の赤字体質に加え、キャリアに守られこれまで安定的な収益をあげてきた国内事業ですら、収益基盤が揺らいできたことである。 国内キャリアは全体の調達規模を絞る一方、端末のラインナップを多様化させることで、自らの競争力を維持しようとしている。その結果、1機種あたりの納入台数が大きく減少している(図表8)。2006年11月に導入されるMNPを睨み、キャリアはこうした姿勢をますます強めるものと考えられる。 特に、NECやパナソニックのように、かつて1機種あたり100万台以上の大量のロットを売り捌いてきた上位メーカーは、海外市場戦略の立て直し以前の課題として、まずは国内市場での収益構造の見直しを迫られる、"尻に火のついた"状態――だといえるだろう。 図表7 主要携帯電話端末メーカーの2005年度上期業績 図表8 NECの国内市場における1機種あたりの出荷台数の減少 出典:NEC資料 ②"社内ノンコア"へと追いやられる端末事業 携帯電話端末を手がける多くの国内メーカーにおいて、社内の事業ポートフォリオ管理基準からいっても、あるいは株式投資家に対する説明責任の観点から見ても、携帯電話端末事業をコア事業/注力事業と位置付け続けることは、もはや難しくなってきた。 往時とは異なり、今や"重荷"となった携帯電話事業に対する負担を小さくするため、多くのメーカーが水面下で他社との事業統合や売却といったことを模索している。NECなどは、国内の他メーカーとの提携を近く実現する意向を、複数の場ですでに公言している。 端末事業自体がもはや構造的に利益を生み出しにくくなってきていること、そして全社的に見て今やコア事業の地位を失いつつある現状を見る限りにおいて、仮に将来海外で3G需要が盛り上がるなど、国内端末メーカーにとって再び反転のチャンスが生まれるにせよ、その機会をタイムリーかつ的確に捉え、積極的な投資攻勢に打って出ることは、非常に難しい経営判断を余儀なくされる状況に追い込まれてきた。 今や日本の携帯電話端末メーカーは、グローバル市場に対する再挑戦への糸口すら掴めないまま、世界の中でも"特異な存在"の支配的プレーヤーたるドコモを筆頭とする、キャリアの統制下に置かれた実質的な"OEMメーカー"として甘んじ、すでに市場規模がほぼ読める白物家電のごとく、成長性が乏しくなってきた日本の携帯電話市場という、孤島の中にとどまらざるを得なくなっている――と表現しても、差し支えない様相なのである。(第2回へ続く)
※初出・情報流通ビジネス研究所「モバイルインターネット要覧2006」第1章-3・崖っぷちの国内端末メーカーと生き残りの方策・2006年3月 ※掲載データや社名等の表記はいずれも当時のまま [コラム関連記事]
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