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事業者だけでは役不足な3Gビジネスの発展(2002/12/24)
すでに、国内の携帯電話加入者数は7000万人を超えた。乳幼児や老人層を除く実質的な利用者人口からすれば、大方は「行き渡った」感すら漂う。最近では「携帯電話市場の飽和」が伝えられ、NTTドコモやKDDI、J-フォンといった通信事業者(キャリア)の戦略転換がクローズアップされてきた。

世界的に見ても、モバイル市場は携帯電話の大衆化によって"量的拡大"というステージを終えようとしている。中国など潜在需要の計り知れない地域を除くと、携帯電話の普及がほぼ完了した欧州各国のキャリアなどは、どこも経営的苦境に喘ぐ。そうしたなかで世界各国の通信事業者やメーカーが目を見張るのが、日本の携帯電話市場なのである。

彼らが注目するのは、ドコモの「iモード」に代表される日本の「モバイルインターネット」だ。携帯電話とインターネットを融合し、メール送受信やインターネット・コンテンツが見られるこのサービス、今や国内では市民権を得つつある。ところが海外では、ほとんど普及していない。

キャリアにとって最大の収益源は、いうまでもなく通信料金である。これまで携帯電話キャリアは、普及促進を図るために料金値下げを続けた。その結果、収益性は年々下降の一途を辿っている。この状況は、日本も海外も変わりない。キャリアの収益性を見る際の指標として、「ARPU」(Average monthly Revenue Par User:1契約者あたりの平均月間料金収入)がある。携帯電話の利用者が1ヵ月にいくら通信料金を使うかというものだ。

海外キャリアのARPUがおしなべて4000~5000円といった水準なのに対し、日本のそれは昨年度で約8000円と群を抜く。彼我の差がどこに起因するのか――それがモバイルインターネットの普及度合いなのである。

欧米ユーザーの大半が、携帯電話を音声通話主体に使用するのに対し、日本ではメールなどのデータ通信が活発に利用されている。すでに若者などのコアユーザーにとどまらず、年齢や性別を問わない一般的な利用シーンになってきた。日本の場合、パソコンは使ったことがなくても、ケータイでメールのやりとりをするユーザーも少なくない。パソコンベースでのインターネットが深く根付いている欧米とは、事情が異なるのだ。

このような背景から国内の携帯電話キャリアは、音声通話収入の落ち込みをデータ通信、すなわち「モバイルインターネット利用で発生する通信」の料金で賄っている。まさしくこの点が、海外の携帯電話事業者にとって垂涎の的なのである。

サービスの高度化で法人需要開拓へ

ドコモのiモードで一気に火がついた日本のモバイルインターネット市場は、通信業界に新たなプレーヤーの登場を促した。それがコンテンツプロバイダと呼ばれるベンチャー企業群である。代表的存在としては、インデックスやサイバードといった企業が挙げられる。

インデックスのように、従来からポケベル向けのコンテンツを提供していたところもあるが、コンテンツプロバイダの大半はそれまで携帯電話業界となじみが薄かった。iモードの開始は、そうした企業が携帯電話業界に参入する契機となったのである。現在では、モバイルサイト数の爆発的な増加とともに、コンテンツプロバイダ各社は生き残りをかけた競争局面に突入している。

モバイルインターネットはパソコンのそれと異なり、携帯電話の表示画面という限られたスペースの中で、魅力ある多様なコンテンツを提供する必要がある。また数多くのサイト会員を相手とするだけに、コンテンツ配信サーバーなど各種ネットワーク管理技術ノウハウが要求される。

こうした流れのなかで、プロバイダ各社はそれまでに開発・蓄積していったノウハウや事業モデルを、「次のステージ」に結び付けようとしている。そもそもはエンターテインメント系など、一般ユーザーを相手にした携帯サイトを作成していたが、競争激化とともに提供コンテンツ/サービスは必然的に多様化/高度化し、一方では一般消費者のみならず、法人分野にまで事業領域を拡大させてきたのである。

他方、携帯電話キャリアも加入者数の頭打ち感が強くなるにつれ、モバイルインターネットを活用した企業向けシステムの構築、すなわち「法人向けモバイルソリューション事業」を本格化させてきている。端末メーカーも法人需要を見込んだシステム開発に本腰を入れてきた。さらには、システムインテグレータやソフトウェアベンダーといった情報系企業も、こぞって法人向けモバイルソリューション事業への進出を開始している。

このように、携帯電話業界としては普及率の向上を背景に、主として消費者相手の事業を進めてきたわけだが、今後は法人ソリューション分野など付加価値の高い事業領域への事業展開が大きなテーマになってきている(図)。

図 
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インターネットとの融合によって、日本の携帯電話市場は多様な企業参入を促し、類例を見ないほどサービスの高度化/多様化を生み出すことに成功した。高水準ARPUだけでなく、業界企業プレーヤーの顔ぶれの多さや多様なサービス/ビジネスモデルの開発――これらのファクターからなる産業規模は、単に加入者数や普及率で計れるものではないだろう。

"プラットフォーム"に変貌する携帯電話

モバイルインターネットとは、見方を変えれば携帯電話が一種の「ビジネス・プラットフォーム」に変わりつつあることを意味している。

昔ながらの「モシモシ、ハイハイ」の世界では、業界参入企業も通信事業者とメーカー、販売店という顔ぶれにとどまっていた。インターネットとの接点が加わることによって、それまで携帯電話とは縁のなかった多くの企業が事業に参画でき、多種多様なビジネスモデルを携帯電話というプラットフォーム上で展開する可能性が広がったのである。

高速道路にたとえていうならば、さしずめ高速道(=モバイルインターネット)のサービスエリアに、さまざまな民間企業が自由に出店(=事業参入)できる環境が整ってきたというところだろう。

すでに、オンライン対戦ゲームやゲームソフトのダウンロード、画像メール/ムービーメール、テレビ電話、あるいは位置情報機能を使った各種のセキュリティサービスなどは商用ベースで提供されている。さらには現在、電子財布(モバイル決済)や電子商取引(モバイルコマース)、電子クーポン、各種認証への応用など、携帯電話という極めてパーソナルなデバイスをプラットフォームにした、新たなビジネスモデルへのチャレンジが活発に試みられている。

企業システムとの関係を見ると、現在では運輸業など従来から無線と縁の深かった特定業種への応用に限らなくなってきた。インターネットとの融合によって、さまざまなプロフィールの企業が、モバイルを活用した営業支援(SFA:Sales Force Automation)や、顧客管理(CRM:Customer Relation Management)といったシステムを構築し、効果を発揮する事例も徐々に出ている。

このように、携帯電話業界による法人ソリューション事業進出の動きと、企業ユーザーの関心の高まりによって、日本では法人でのモバイル活用が今後の大きなテーマになりつつある。携帯電話のインフラ自体も、従来の日本独自方式から世界的に標準化された第三世代(3G)への移行が積極的に進められている最中だ。

3G携帯電話ではデータ通信速度が飛躍的に高められ、音楽配信やテレビ電話などのマルチメディア・サービスが提供できるとともに、企業向けとしては高速データ通信による高度なモバイルシステム構築が可能になる。先に挙げたような、新しいアプリケーションの多くは、3Gでの活用を前提にしたものだ。3Gとは、今後色々な事業モデルが繰り広げられようとしているプラットフォームなのである。

3Gの本領は企業ユーザーが創造

ところが現在、3Gは世界的に見ても普及が進んでいるとは言い難い。ドコモは、商用3Gとして世界初のサービス「FOMA」を2000年10月に開始したものの、2年経過した2002年10月末現在、加入者数は約14万人と振るわない。

苦戦の要因として、利用時間の短さやエリアの未整備などが挙げられている。ただ、これらは最初から「織り込み済み」だったはずなのである。ドコモと同じ方式の3Gを採用した欧州各国は、財政難も手伝ってサービスの延期を次々と表明している。

システム自体がクリアすべき課題や技術的問題は、いずれ解決する。が、状況を本質的に分析すると、"難産"の要因は、これからの事業プラットフォームたる3Gの持ち味が発揮されていない――ということに尽きるのである。

先に挙げた通り、携帯電話は通話やメールといった単なる通信以外に、決済や認証といった別次元の要素が入り込んでくる。また、高度な機能を用いた企業活用が進む。そして、すでに異業種からの参入企業も出揃ってきている。

しかし、古くからの携帯電話業界プレーヤーは、3Gという新たな事業環境が登場してきたにも関わらず、従来からの事業モデルから脱却できていない。通信のみの世界では、キャリアが主導して事業を進めるのは有効だが、全く異なるサービスや機能が入り込む世界では、外部企業と対等な立場で協業や連携していくことが重要なのである。モバイル先進国の日本であるが、今のところこの部分が一皮むけていない。

例えば、企業向けソリューションは業界にとって今後の大きなテーマだが、モバイルであるが故に顧客企業のフロントエンド業務と密接な関わりを持つ。業務内容や実情は顧客自身が一番分かっており、そこに"素人"のモバイル業界が「ソリューション」と称し、業務効率化や売上向上を謳い文句に、システムやサービスを売り込みに行くことは、本来おかしな話なのだ。

むしろ、顧客企業が自社向けに構築したモバイルシステムを、業界特有の業務ノウハウを詰め込んで、同じような業種/業態向けに外販する形の方が自然だろう。汎用コンピュータ時代における企業の電算室が子会社化/独立化していった、かつてのパターンと似ているが、システムに注がれる業務ノウハウの密度からすれば、まさに「餅は餅屋」の強みが発揮できる領域なのだ。それを可能にするのが3Gといえる。

3Gというインフラは、ユーザー企業がこれを活用することだけにとどまらず、これを一歩進めて事業化し、独自のノウハウやアイディアを盛り込んだシステムとして外販可能な、いってみれば「ビジネスチャンスの宝庫」なのだ。

自社活用から「MVNO」への発展

現在、モバイル業界では「MVNO」(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動通信事業者)という存在がクローズアップされてきている。簡単に言えば、周波数やそれに関わる基地局設備などをキャリアから借りて、各種の移動通信サービスをユーザーに提供する事業者を指す。

欧州では「回線の単純再販」というだけのMVNOが多く、卸元であるキャリアとの差異化要素は、単に「安さ」や「ブランド」だけであるが、すでにインターネットとの融合が普及している日本は、MVNOならではの付加価値サービスを提供できる環境が整っている。

分かりやすいところでいえば、セコムの「ココセコム」などがそれに該当する。同社は、高度な位置情報機能を持った専用端末を開発し、KDDIから周波数を「借り」て、自社の各種セキュリティサービスを提供している。こうした事業アイディアは、本業を営む企業だからこそ考えつくもので、なかなかキャリア自身から生まれるものではない。

EUの報告書などでも、3G普及・発展のためにはMVNOの存在が大きいとされている。キャリアに対する法的強制力はないが、総務省も2002年春にMVNO参入のガイドラインを示した。ドコモを始めとして、今のところ各キャリアは、MVNOの存在に対して消極的なスタンスを採っている。

しかし、通信にとどまらない各種の高度サービスや、企業システム構築を可能にする「プラットフォーム」、すなわち3Gの本領が発揮されるためには、MVNOの存在が不可欠になってくる。キャリアだけでは役不足なのだ。モバイル企業ユーザーから発展し、一般消費者や企業システム向け、いずれの分野にも独自ノウハウを武器にしたMVNOが活躍する日は遠くないだろう。
(文/情報流通ビジネス研究所 所長 飯塚周一)
月刊「商工ジャーナル」2003年1月号に掲載
※本コラムは、中堅・中小企業経営者向けの月刊誌「商工ジャーナル」(発行:商工中金グループ・日本商工経済研究所)に寄稿したものです。本稿の「3G」とは、「次世代の携帯電話ビジネス」といった意味で使用しています。

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